序章

始まりは何気ない一言だった。
「スイスロールを一本食べてみたい」
言った本人さえ忘れてしまうような些細な事だったはずだ。しかし、バイトから帰り冷蔵庫を開けるとスイスロールが数本収まっていた。その瞬間、脳裏に母の顔が浮かぶ。凛としつつもやさしさに溢れる母が静かに頷く。
「たたかえ」
そう口が動き母の顔は消えた。